320202 ランダム
 ホーム | 日記 | プロフィール 【フォローする】 【ログイン】

バックパッカーの旅Ⅰ(東京~アテネ)

バックパッカーの旅Ⅰ(東京~アテネ)

タクシーの運ちゃんと格闘

                 ≪八月二十六日≫    ―壱―



  食堂のイスに座ると、給仕がやってきて、注文を取っていく。


 高いレストランと言われながらも、朝のコーヒーを啜っている。


 別段日本人旅行者が多いという訳でもないのだが、それでも常時10

人くらいは見かける。


 眠い目をこすりながら、タバコに火をつけ、熱いコーヒーで目を覚ま

す。


 今朝は軽い食事を取る。


 ハムエッグにパンを追加して20バーツ(300円)也。



  食事を終えて、J-トラベルにまた顔を出す。


 お姉さまたちと暫くの間談笑して、この後何組かに別れて行動を取る

事になった。


 ホームシックとこれから先に不安をもっている新保君は、少しでも前

に進もうと、一人インド・デリーに飛び、そこからアテネ行きの直行バスに

乗るのだと、切符を手配してしまった。


    俺 「そんなに早く行ったって、向こうで退屈するだけだ

よ!」


    新保「良いもん。」


    俺 「ヒッチはどうすんの!」


    新保「アテネの近くでやるもん!」



  デリーへ行くと決めた彼は、何もすることなく、レストランで

顔を合わせた田中君(京大生)と二人で、タイ大丸へと行ってしまった。


 我々三人は、待ち合わせ場所をアートコーヒーに決めると、俺は一人

で次の目的地である、ネパール大使館へ急いだ。


 ビザを取得する為である。



  陽射しも強く、ネパール大使館はかなり遠い。


 ホテルを出たところで、タクシーをつかまえることにする。


 ブルー色のタクシーが停まった。


 運転手が顔を出したので、地図を広げてネパール大使館に行くように

告げた。


    運転手「OK!わかるよ。」


    俺  「いくら?」


    運転手「25バーツだ。」


    俺  「NO!15バーツにしろ!」


    運転手「ダメだ!」



  もめている所へ、ホテルの専属運転手がやってきて、”乗

れ!”と言うではないか。


    俺   「金はないよ。」


    運ちゃん「良いから、とにかく乗れ!ネパール大使館だろ。お

れは良く知ってるから。」


 片言の英語で、俺を強引に引っ張りこんだ。


 どうやら、ネパール大使館に行く日本人が多いから、いつも乗っけて

ってると言っているようだった。



  俺   「15バーツだからな!」


    運ちゃん「大丈夫!良いから・・・。」


 運ちゃんはニコニコしながら、片言の英語で話し掛けてくる。


  (良いカモとでも思ってんじゃぁないの?)


 いかにも、俺は日本人が好きなのだと顔は笑っている。



  車はだんだん街から離れ始めた。


 車の数も少なくなってくる。


 運ちゃんがキョロキョロし始めた。


    俺「何だ!知ってんじゃないのかよ!」


 地図をひろげて、道路の名前を確認する。



  何度かUターンしながら、地元の人たちに道を聞きながら車は

走った。


    俺「やけにこの運ちゃんサービスが良いなー!」


 ・・・な、なんと運ちゃん、車を停めて自分の足で探し始めるではな

いか。


    俺「怪しいな。」



  ネパール大使館は、小さな路地の突当たりにあった。


 小さな看板が出ているだけの、見落としそうな小さな路地だ。


 近づいてみると、大使館はなかなか立派な建物で、広い庭には芝生が

植え込まれており、建物自体もレンガ造りの平屋建ての立派な物だ。


 タクシーは門の中に入り、建物の近くで停まった。



  俺   「どうも有難うね!それじゃあ!」


    運ちゃん「30バーツね!」


 ぬけぬけと笑いながら金を 要求してくる。


    俺   「とんでもない!前のタクシーだって、25バーツな

んだからな。」


    運ちゃん「あっちこっち探してやったから30バーツだ。」


    俺   「ダメだ!金はないって、言っただろ!」


 なかなか、運ちゃんも引き下がりそうもない。


    俺   「これしかないからな。」


 運ちゃんには、20バーツを渡す事にした。


 これ以上は絶対出せないと強行に告げる。



  今までの笑顔もどっかへ飛んで行ってしまったような顔をし

て、なにやらへたくそな英語で暫くまくし立てていたが、知らん顔を決めて

いると、しぶしぶ受け取り走っていってしまった。


    俺「あんなもんさ。」



  雨季が去って一ヶ月らしく、空はあくまでも青く、緑の青さは

輝くばかりだ。


 緑の芝生の中、門から真っ直ぐと石畳が続いていて、途中に守衛小屋

のようなちっぽけな建物がある。


 矢印によるとどうもその建物が、ビザの申請書らしい。


 らしいと言うのは、まるで人気がなく、ドアにはしっかりと鍵が掛け

られていたのだ。



  時計を見る。


 12:15。


    俺「そうか、昼休みなんだ。しっかりしてるぜ大使館は!やる

事はのんびりしてるけど、休みはしっかり取ってるんだ

な!」



  仕方なく、13:00まで外をぶらつく事にする。


 かなり中心地から離れているため、車も人通りもまるでいない。


 飯でも食うかと入った店がまた凄い。


 とにかく蝿が多い。


 店の人には、この悠々と飛び回る蝿が目に見えていないのか、無頓着

で蝿を追っ払おうとしないのだ。


 この蝿を見ていると、食欲も起こらず、コーラ一本で昼食を済ませて

しまう羽目になってしまったではないか。



  昼休みを利用して、ビザ申請書に文字を埋めておく事にした。


 英語の辞書を片手に奮闘する。


 今までの国のビザと違って、宗教関係の欄が多く、どう書いて良いの

か悩む。


  ”あなたは、何教徒ですか?”
 あらためて自分の宗教を問わ

れると、本当のことを書いていいのか迷ってしまう。
 ここからの国で

は、宗教を持たない人間は、人間を否定されるのである。



 ”仏教徒か、・・・・キリスト教徒って書いてた方が、・・・無

難かな?”


 そんなことを考えながら、少しずつ申請書を埋めて行く。







© Rakuten Group, Inc.